人生で自分より汗をかく人間に出会ったことがない。
そもそも出会った人間の母数が少ないことは置いておいて、単純に汗腺が多いからか身体的に汗をかきやすいのと、人目を過剰に気にしすぎるHSPの気質が、これでもかというぐらいに噛み合っている。この二つのどちらかを満たしている人間に出会うことはあるけれども、両方を自分以上に満たしている人間には未だに会ったことがない。あくまで主観。
運動してかく汗はまだいい。汗をかいてしかるべき理由があるから自分を納得させられる。それとは別に、精神的に追い詰められることで汗をかくことがある。大抵が極度の緊張状態にあるときだ。人前で発言するとき、人に怒られているとき、自分の行動が人に見られている意識が強くあるとき、失敗をして焦っているとき。こういうときは大体が汗をかいてしかるべき環境にはなくて、その空間の中で自分一人だけが汗をかいていることが多い。室内は大抵の場合涼しいからだ。自分一人が汗をかいているという事実は(たとえそうではなくても、そう認識してしまうと)、さらなる汗を加速させる。極度の緊張が、恥ずかしさや不安、焦り、絶望へと形を変えることで一層強い緊張状態が生まれ、次から次へと汗が噴き出してくる。汗が汗を呼ぶ、このループができあがったが最後、その状況が終了するまでは助かる術がない。こんなことなら汗とともに体ごと溶けてなくなってしまいたくなる。そして、そうさせてもらえない現実に絶望する。やっとこさその緊張状態が終了しても汗が引くのには時間がかかるし、汗で濡れた髪が乾くのにはもっと時間がかかる。そのうえ汗に気を取られてパフォーマンスを全く発揮できなかったことで自己嫌悪に苛まれたり、そもそも自分が汗っかきに生まれたことの理不尽さに対して憤ったりして、しばらくは立ち直れない。あとシンプルに汗臭い。
汗が神聖なものと崇め奉られ、一番多く汗をかいた奴が優勝みたいな世界に生まれていたらどれほどよかっただろう。
短所も、視点を変えればいくらでも長所になり得るらしいが、汗っかきで良かったことってなんだ。代謝が良いとかか。老廃物を人よりも排出してくれているのは有難いことだが、その老廃物を常に噴き出しながら生活しなきゃいけない人間のことも一旦考えてみてほしい。
汗っかきとか低身長とか太っているだとか薄毛とか(どれも自分は比較的当てはまっている)、世間的に短所と見られがちな身体的特徴を無理矢理長所に落とし込むとき、ほとんどの場合客観的立場に立って考えられている気がする。たとえば低身長だと、穏やかに見えるとか威圧感がないとか接しやすいとか? わからんけど、これらは全部相手の立場から語られている。したがって身体的特徴を無理矢理長所にするためには一度他人の視点に立って自分を捉え直さなければならず、その上で自分の特徴を肯定してあげなければならない。これは、その特徴に長年コンプレックスを抱いてきた人間には結構骨が折れる作業だ。結局低身長は高身長にずっと憧れて生きてきているので。
11月だというのにまだ暑さが残り、汗っかきには一番過酷なシーズン(夏場はみんな汗をかくので紛れやすい)が続きますが、汗っかきの皆さん強く生きましょう。