祖父のお見舞いに行った。お見舞いとは言っても母親に頼まれて必要な物を届けに行くだけで、ほぼお使いに近い。祖父は1ヶ月半ぐらい前から入院している。容態もあまり芳しくはないらしい。入院するという話を母親から聞いた時にも、なんとなく他人事っぽく聞いている自分がいた。親族の入院に対する感想にしてはあまりにも薄情だなと思うが、それが正直な気持ちだった。
病室に入ってからも特別に強い感情は浮かんでこなかった。帰りに何を食べようかなとかそんなことを考えていた。祖父は管のようなものを通され、パッと見ただけでは寝ているのかどうかも分からない。持ってきた荷物をベッドの脇にあるテーブルへ置く。届けるべきものは届けたので、寝ているようであれば起こさずに帰ろうと思ったが、しばらく様子を見ているとゆっくりと目が開いたので声をかけることにした。
荷物を持ってきたことを伝え、具合はどうかみたいなことを尋ねる。具合なんて良いわけもないのにね。祖父はややあって自分のことを認識したのか、弱弱しくもしっかりとした目でこちらを見据えながら、かすれた声でありがとうと言った。力を振り絞ってどうにか発したような一言。今の状態だとそれ以上の会話は難しいらしい。もしかしたら祖父の本当に考えていることや伝えたいことが、そのままの形で誰かに届くことはもう二度とないのかもしれない。そう思うと、今になってその事実が重くのしかかってきた。生きているのに言葉が届かないのは、死ぬことより残酷かもしれないと思った。あるいはそれは受け取る側のエゴだろうか。こんなことになってようやくもっと話しておきたかったという気持ちになる。色んな事を後回しにしてきたなあと思う。